福祉国家としての税制のあり方―①

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投稿者:       投稿日時:2013/10/19 16:36      
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 これまで、1990年代後半以降の日本国内の税制における変遷とその帰結国外(デンマーク)における税制の現状と日本との比較という二つの枠組みから検討してきました。これらを踏まえて本記事では、今後の日本の税制の向かうべき方向性について検討していきます。

 

1 所得税の累進税率強化と国民総背番号制

 まず、福祉国家型の税制を目指す上での大前提として、国民総背番号制の導入が不可欠だと思います。「高福祉」のための「高負担」を求めるためには、どれほどの負担を求めるか以上に、いかに公平に徴収するかが重要です。番号制を導入せずに現状のまま増税をすれば、過去に指摘した所得税の「クロヨン」問題や消費税の滞納増大というような税制のゆがみを大きくする可能性があります。これでは増税に対する不信や不公平感を大きくしてしまうだけでしょう。また、番号制はデンマーク以外でも導入されている。各国で利用方法が異なるので単純比較はできませんが、スウェーデン、フィンランド、ドイツ、オランダ、韓国などで導入されている。特に北欧のような高福祉・高負担と言われる国では、行政が個人のニーズや資産状況に合わせて福祉サービスを過不足なく提供する必要があります。更に税金を滞りなく確実に徴収するためにも、効率的な国民の情報管理が不可欠なのです。

 このような番号制を導入した上で、課税ベースの拡大を図りながら所得税の累進税率を強化し、再分配効果を高める必要があるのではないでしょうか。以前にも指摘した通り、所得税の減税や累進税率の緩和は富裕層への恩恵を大きくするだけで国民生活全体として良い影響をもたらしません。こうした点から、デンマークのような水準まで引き上げるかはともかく、番号制を導入した上で、課税ベースの拡大を図りながら所得税の累進税率を強化する方向へ向かうべきだと思います。

 

2 法人税―国際的な基準の必要性

 法人税に関しては、以前に指摘したように、大部分の法人は赤字法人で実際は法人税を負担していないことや、法人税を負担しているのがそもそも誰なのかわからない、さらに言えば法人所得の計算過程において様々な特別措置が組み込まれており、公平に算出されていないなど、ふたを開ければ非常に複雑かつ不公平だらけの税制で、安易に増税を求めることは難しいです。グローバル化が進むにつれて、企業の国際競争力という問題が常にまとわりつくので、日本国内だけで公正化しようとするとビジネス環境上、日本に不利にならざるを得ません。しかしながら、ビジネス環境上不利だからと言って他国と同じように税率の引き下げ競争に参加することは良くないでしょう。以前に指摘したように、大半の企業が法人税を負担していないことを考えれば、減税策は結局のところ大企業優遇の感が否めません。また、何度も指摘しているように、企業側を支援したとしても国民生活に良い影響はもたらさないという点からも、法人税の減税は避けるべきでしょう。

 こうした点から、もはや一国の事情だけでは税制を決定することが難しくなってきているという状況を意識しなければなりません。その上で日本がとるべき行動は、国際的な基準の確立に向けた努力でしょう。近年の法人税引き下げ競争は、最終的には各国とも法人税をとることが出来なくなるということです。結局のところ各国自ら税制の首を絞めることになるので、これを防ぐために日本が中心となって国際的な基準の確立を呼びかけるべきではないでしょうか。

 

 

参考文献

・ケンジ・ステファン・スズキ『消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし』角川SSコミュニケーションズ、2010年、102-105頁

・三木義一『日本の税金 新版』岩波書店、2012年、49-56頁、80-81頁

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