生活保護制度の現状分析と今後の課題

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投稿者:       投稿日時:2013/11/19 12:16      
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はじめに:生活保護の受給者が過去最多の211万人となり、給付額は3兆7000億円になると見込まれている。これに加えて、芸能人の家族による生活保護受給報道もあいまって、生活保護制度がクローズアップされている。生活保護制度について本格的に議論する時期が来ていると言えよう。しかし、マスコミの報道を見ていると、不正受給や受給者数の増大、給付額の増大ばかりが報道され、中でも不正受給に対する感情論が跋扈しているという印象だ。以上を踏まえて本論文では、そもそも生活保護制度とは何かを簡単にまとめる。次に生活保護制度についてある程度理解した上で、マスコミではあまり報道されていないような部分に焦点を当てて、本質的な問題点を浮き彫りにするとともに、今後、生活保護受給者を減らすにはどうすべきかを示していきたい。

 

 

 

 

第一章 生活保護とは

まずは生活保護とは何かについて検討する。生活保護とは、簡潔に言うと「暮らしに困った場合の最後の頼みの綱」である。この根拠となっているのが日本国憲法第二十五条の定める「生存権」である。条文を引用すると、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とある。この条文によってすべての国民の最低限の生活が権利として認められている。これを具体化した法律が生活保護法で、四つの原理が定められている。①国家責任②無差別平等③最低生活の保障④補足性、の四つである。詳しくは生活保護法の総則を見ていただきたいが、簡単に述べると①は貧困者の救済は国の責任と認めたもの。②は思想や人種などあらゆる違いによっても差別的な扱いをしないこと。③は単に生存するためだけの生活保障ではなく、健康で文化的な最低限度の生活水準のことである。④だけは①~③とはニュアンスが異なり、この法律の実施にあたって国民が守るべき決まりを示している。具体的には、生活保護を受けることができるのは自分の資産や能力を活用する努力をし、親族等の援助や生活保護制度以外の援助を検討した上でなお生活できない場合に限って生活保護が支給されるということである。

 

 

 次に日本の社会保障制度の中における生活保護の位置付けについて検討する。日本の社会保障制度は基本的に四つから成り立つ。①社会保険②社会福祉③保健医療・公衆衛生④公的扶助である。生活保護は④における中心制度である。社会保障制度は歴史的にみると、貧困になることを未然に防ぐ①社会保険と、貧困になった人を救済する④公的扶助の二つをもとに成立した。こうした関係から、社会保険と公的扶助の決定的な違いは、事前救済か、事後救済かの違いである。社会保険が貧困に陥る前の事前救済なのに対し、公的扶助は貧困に陥った後の事後救済である。これが前述した「暮らしに困った場合の最後の頼みの綱」と言われる所以である。もう一つの違いとして、給付要件がある。社会保険は保険料を拠出しなければ給付は受けられない。逆に言えば保険料さえ拠出していれば本人の所得や財産水準にかかわらず給付を受けることができる。一方の公的扶助は本人の拠出を必要とせず、全額を税金という公費で賄われるが、給付を受ける際には所得調査や資産調査などのいわゆるミーンズテストを必要とする。

以上が生活保護制度の大まかな概要である。

 

 

 

 

第二章 生活保護受給者増大の背景と問題点

生活保護受給者増大の背景には、生活保護制度そのものの問題点だけではなく、生活保護を取り巻く周辺の制度との関係の中で、いくつかの要因が存在する。したがって、ここでは生活保護制度を取り巻く周辺制度に焦点を当てて受給者増大の背景を検討する。

生活保護受給者増大の背景を考える上での足掛かりとして、まずは受給者の構成について確認する。国立社会保障・人口問題研究所のデータによると、2010年度の受給者の構成比は、「高齢者世帯」が42.9%、「母子世帯」が7.7%、「傷病者世帯」が21.9%、「障害者世帯」が11.2%、「その他の世帯」が16.2%となっている。このデータから受給者の半数近くが高齢者世帯だということがわかる。

 

 ではなぜ、高齢者世帯の受給者が多いのか。それは不十分な年金制度が関係していると言える。日本年金機構HPによると、老齢基礎年金を満期の40年間納めた場合の受け取れる金額は、平成24年度で年額786,500円、月額では約66,000円である。これには住宅費や医療費、介護費などは加味されていないので、最低生活保障が困難になっている。そもそも年金制度自体の趣旨が老後の生活すべてを賄うようには設計されておらず、あくまで食費を中心とした老後の生活の「基礎部分」を賄うものと考えられている。したがって、年金とは、かつての所得の一部を支給することを目的としているので、最低限の生活を保障するものではない。このように年金制度が最低限の生活を保障するものではないために、今まで働いてきた分の貯蓄が十分でない高齢者が退職した後に最低限の生活ができずに生活保護へ流れるという構図ができている。

 

 年金との関連で言うと、近年の国民年金の納付率の低下も重要だ。要因としては年金制度に対する不信や、そもそも保険料が支払えないワーキングプアの増大が考えられる。国民年金の納付率が低下するということは、年金の受給できる額が減額、または無年金という状況も考えられる。こうした状況の人々が増えれば、生活保護受給者が増大するのは必然と言える。以上が一つ目の受給者増大要因である。

 

 

 次に検討するのが、雇用と生活保護受給者増大の関連である。不安定な非正規労働者の拡大も、生活保護受給者を増大させる要因となっている。かつての日本においては、日本型雇用と呼ばれる終身雇用が第一のセーフティネットの役割を果たしていたが、近年の非正規労働者の増大によって、終身雇用というネットはもろくなっている。こうしてもろくなった雇用からこぼれた人を受け止める失業給付も受けられる人が減っているのが現状だ。

 

 

具体的にみていく。雇用と関連する生活保護受給者増大の背景としては、経済の低迷に伴う失業者の増加がある。国立社会保障・人口問題研究所によると、2008年以降「その他の世帯」が増大している。「その他の世帯」とは、働きながら生活保護を受けている母子世帯を除いた世帯がそれに当たる。すなわち働く能力のある失業者が生活保護受給者になったことを示す。「その他の世帯」は08年に10.6%であったが、09年には13.5%、10年には16.2%と増大している。リーマンショック以降の経済低迷で、多くの非正規労働者が派遣切りに遭った結果である。本来ならば失業した場合は雇用保険がセーフティネットの役割を果たし、失業給付が受けられるはずだが、非正規労働者の中には雇用保険に加入していないために失業給付が受けられず、直接生活保護を受けることになる。

最近では長期失業者が増大していることも生活保護受給者を増大させる要因となっている。本田良一氏によれば、1990年時点では失業者のうち1年以上の長期失業者は19.1%であったが、2007年には32.0%に達するという。このように一年以上の長期失業者が増大しているにもかかわらず、失業給付の期間は原則として最長で330日なので、失業給付からこぼれて生活保護を受けるという形になっている。以上のように、非正規労働者が増大することによって雇用というセーフティネットからこぼれる人が増えたこと、雇用のセーフティネットからこぼれた人を支える失業給付が貧弱であるというダブルパンチによって、生活保護を増大させていることが言える。

 

 

 次に検討するのが貧困や教育、学歴の関連である。貧困や教育、学歴は密接に関連している。週刊ダイヤモンドに掲載されている大阪府堺市健康福祉局理事の調査によると、生活保護家庭の4分の1は世襲である。具体的に見てみると、全体のうち、過去に育った家庭も受給世帯の割合は25.1%で、母子家庭に至っては40.6%である。また、全体のうち世帯主が中学卒の割合は58.2%である。

別のデータもある。これも同じ週刊ダイヤモンドに掲載されているもので、父の学歴によって子の収入も変わることを示している。具体的に見ると、父が大卒の場合の子の収入は、年収650万円以上が5割弱を占め、年収300万円未満は2割弱にとどまる。一方で父が中卒の場合の子の収入は、年収650万円以上は3割弱に過ぎず、年収300万円未満は2割強である。また、就学援助率と学力の関係を表すデータもあり、就学援助率が高い地域では学力調査の平均点が低いという結果が出ている。これらがいわゆる貧困の連鎖だ。

では、貧困の連鎖を断ち切るための有効な手段とは何か。それは前述した父の学歴と子の収入のデータから見れば、学歴であると言える。

 

ところが、日本の場合は教育費が非常に高いため、経済力の差によって教育機会の不平等が生じてしまっている。OECDが公表している『図表でみる教育 OECDインディケータ(2011年度版)』によると、日本の教育支出を占める私費負担の割合は、学校教育段階全てにおいてOECD平均を上回っている。ここでは高等教育(大学)について具体的に見てみる。日本では、私費負担全体で66.7%、そのうち家計負担は50.7%である。データの中で最も負担が低かった国のフランスを見てみると、私費負担全体で18.3%、そのうち家計負担は9.6%である。授業料で比較すると更にわかりやすい。『週刊エコノミスト 2012年8月13日号 大学生の授業料・奨学金に関する国際比較』によると、フランスの国立大学の授業料は年間1.8万円。一方の日本の国立大学は年間53.6万円、これに加えて入学金28万円を支払う。このように、日本の教育費、特に高等教育費が非常に高いために大学進学がかなわず、家庭の経済力の差によって教育機会が不平等となることで子どもの将来格差も生み出す貧困の連鎖が確立されてしまっている。こうした状況は、生活保護受給者の増大要因というよりは、世代を超えて生活保護受給者が再生産され、貧困から抜け出すことが困難であるという点で問題を認識すべきである。

 

この他にも生活保護費の約半分が医療費であること、日本の生活保護における扶養義務の範囲の広さなど、検討したいことは多くあるが、字数の制約上省かせていただく。また別の機会に検討できたらと思う。

 

 

 

 

終章 課題と対策

ここからは第二章で検討した問題点を踏まえた上で、生活保護受給者を減らすにはどうすべきか、自分なりの考えを提示する。

 

 第二章で検討してきたことからわかるように、生活保護受給者の増大要因は、生活保護制度そのものに問題があるというよりは(もちろん入りにくく抜けにくいなど制度自体の問題もあるが)、生活保護を取り巻く周辺制度のもろさが問題である。したがって、生活保護受給者を減らすためには周辺制度の充実が不可欠だ。その具体策として、①最低保障年金の創設②失業給付の強化と就労支援の強化③就学援助、奨学金の充実を提案する。新鮮味はないが、これらが最適ではないかと考えている。

 

 ①最低保障年金は、文字通り最低生活を保障する年金である。第二章で見た通り、月額66,000円の年金ではとても生活できない。そこで、住宅費なども含めた必要最低限の生活ができる金額まで受給額を引き上げることで、高齢者の生活保障をすることが重要だ。そもそも生活保護の目的は「自立の助長」であるが、現在の制度は高齢者も若者も労働者もすべてを抱え込んでしまっている。「自立の助長」を目的としている制度の中に、稼働能力のない高齢者を含めてしまうのは根本的に矛盾している。こうした矛盾をなくすためにも、最低保障年金の創設は重要である。一方で、経済的に余裕のある高齢者に関しては年金支給額を減額する措置も考えるべきだ。社会保障を考える上では財源についても検討しなければならず、日本の財政状況を勘案すれば余裕のある高齢者にまで貧しい高齢者と同額を支給する余裕はない。そこで、財源を保険料ではなく税金とすることで負担と給付の関係を不明確にし、貧しい人を社会全体で支え合う再分配的要素を強くした制度設計を確立すべきだと考える。また、そもそも保険料を払わない、もしくは払えない人が増えているのだから、年金制度を持続可能にする上でも税による調達の方が効率的ではないか。

 

 ②失業給付の強化と就労支援の強化も文字通りである。一年以上の長期失業者が増大しているにもかかわらず、最長でも330日までしか失業給付が受け取れない状況は、現状に即した給付要件とは言えない。加えて、雇用保険に加入していない人は失業給付を受け取ることすらできない。ここでも財源を税金とすることで失業した場合には誰でも受け取れる制度を確立するというのも、議論の余地があるのではないだろうか。変化の激しい現代だからこそ、いつ、誰が失業するかはわからないので、社会全体で支え合う制度設計が求められているように思う。

 

 ③は就学援助、奨学金の充実である。教育に関しては、もはや財源云々の問題ではないと考える。教育は生活保護を抜け出すための手段にとどまらず、国の根幹を作り上げるものだからだ。子どもの自己責任とは言えない経済的な理由から、教育の機会均等を奪うようなことは決してあってはならない。貧困の連鎖を断ち切るという目的に加えて、教育は未来の人材への投資と考えて、今すぐにでも就学援助、奨学金は充実させるべきだ。

一方で私は教育に関してはすべて無償化がベストだと考えている。未来の人材への投資という点から言えば、年金と違って教育は経済力にかかわらず全員に恩恵をもたらす必要があるからだ。しかし、実現可能性を考えると現状ではかなり難しそうなので、少なくとも経済的理由で進学ができないということがないよう、就学援助、奨学金の充実を提案する。民主党政権下での、子どもは社会で育てるという理念の下、所得制限なしで現金を渡した子ども手当は、私は一定の意義があったと考えている。これに修正を加えながらの発展を望んでいたのだが、旧来の所得制限ありの児童手当に戻るようなので残念だ。この点が今後の課題だと考える。

 

 

 以上三点が私の考える受給者を減らす対策である。これが完璧であるとは到底思えないが、それなりの効果は上げるのではないか。

 他にも述べておきたいことは多いが、分量の関係上ここまでにしておく。意見、感想、疑問等お待ちしています。

 

 

〈参考文献〉
・本田良一『ルポ 生活保護 貧困をなくす新たな取り組み』中公新書、2010年
・阿部彩『経済教室 生活保護制度を考える(上)』日本経済新聞、2012年7月24日朝刊
・岡部卓『経済教室 生活保護制度を考える(下)』日本経済新聞、2012年7月25日朝刊
・『生活保護法』http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO144.html (閲覧日:2012年10月9日)
・国立社会保障・人口問題研究所HP『世帯類型別被保護世帯数及び生活保護率の年次推移』
http://www.ipss.go.jp/s-info/j/seiho/seiho.asp (閲覧日:2012年10月9日)
・日本年金機構HP『年金の受給(老齢年金)』
http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=3221 (閲覧日:2012年10月10日)
・『週刊エコノミスト』2012年8月13日号、p125~127
・『週刊ダイヤモンド』2008年8月30日号、p35~41
・『図表でみる教育 OECDインディケータ(2011年度版)』
http://www.oecdtokyo2.org/pdf/theme_pdf/education/20110913eag.pdf (閲覧日:2012年10月11日)



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