日本は福祉国家型財政なのか―バブル崩壊以降の財政運営
2、バブル崩壊以降の財政運営
前回までは、時期区分的にはバブル崩壊以前までの財政運営のあり方と福祉国家型財政を比較し、日本は福祉国家型財政ではないことを確認しました。本節では、バブル崩壊以降の財政運営をみることで、日本が戦後から一貫して福祉国家型財政を経験したことがあるか否かを検討します。結論から言えば、バブル崩壊以降の財政運営は、ケインズ主義型財政と歳出抑制型財政のどちらかを当てはめることで説明ができるので、日本は戦後から一貫して福祉国家型財政を経験したことはないと言えます。以下では①バブル崩壊から小泉政権期手前まで、②小泉政権期、③民主党政権期から現在までに分けて検討していきます。
2-1 バブル崩壊から小泉政権期までの財政運営と福祉国家型財政の比較
バブル崩壊以降から2000年代初頭にかけては、ケインズ主義型財政に分類できます。この時期の特徴をみるために、表5-1を見て下さい。
表5-1 一般会計主要経費別推移 (兆円)
|
1990年度 |
1999年度 |
増減 (90→99) |
90年代純増累計額 |
総額 |
69.3 |
89.0 |
19.7 |
73.3 |
社会保障関係費 |
11.4 |
19.0 |
7.6 |
27.9 |
文教・科学振興費 |
5.4 |
6.8 |
1.4 |
8.1 |
国債費 |
14.3 |
20.2 |
5.9 |
11.2 |
地方交付税費 |
15.9 |
12.4 |
▲3.5 |
▲4.2 |
防衛費 |
4.2 |
4.9 |
0.7 |
4.2 |
公共事業関係費 |
6.9 |
12.9 |
6.0 |
43.5 |
出所:関野、下記参考文献、27頁、表1-3
これは1990年から99年にかけての一般会計主要経費別推移です。これによれば、歳出総額は90年から99年の間で19.7兆円の増加となっており、その大半は社会保障関係費、公共事業関係費、国債が占めています。ここで重要なのは、90年代純増累計額です。これは90年度決算を基準に各年度歳出純増額を91年から99年で累計したものです。これによれば、各経費の中で公共事業関係費が突出していることがわかります。また、図2-2からもわかるように、公共事業と関係の深い財政投融資も90年代に入っていっそう伸びています。これはこの時期の財政運営が有効需要の喚起としての公共事業、つまりケインズ主義型財政の復活であることを意味しています。
また、この時期は大規模な減税政策が行われたという点でもケインズ主義型財政と言えます。例えば、94年から96年の所得税・住民税の特別減税実施、95年からは制度減税の実施、更に99年には所得税・住民税のフラット化、最高税率65%(所得税50%、住民税15%)から50%(所得税37%、住民税13%)への引き下げが実施されました(関野下記参考文献、29-30頁)。法人税率も、98年に37.5%から34.5%、99年から30%に引き下げられました。
このように、減税政策を組み込みながら、不況対策としての大規模な公共事業を行う財政のあり方は、まさにケインズ主義型財政と言えるでしょう。
参考文献
・菊池英博『消費税は0%にできる―負担を減らして社会保障を充実させる経済学』ダイヤモンド社、2009年、147-149頁
・関野満夫『日本型財政の転換 新自由主義的改革を超えて』青木書店、2003年、25-31頁
・田中秀明『日本の財政』中央公論新社、2013年、9-42頁