日本は福祉国家型財政なのか―民主党政権期の財政運営

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投稿者:       投稿日時:2013/11/24 15:32      
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2-3 民主党政権期の財政運営

 小泉政権以降、世界的な金融危機を背景に再び財政は悪化しました。政治的にも毎年首相が交代し、国民も自民党政権に嫌気がさしていました。そこに登場したのが民主党政権です。民主党政権の予算編成を見ると、福祉国家型財政にシフトしようとしたことが見て取れます。具体的に見てみましょう。平成22年度(2010年)一般会計予算を見ると、対前年度伸び率は社会保障関係費が9.8%増、文教及び科学振興費が5.2%増、地方交付税が5.5%増となっています。他方で公共事業関係費は18.3%減、恩給関係費が9.3%減など大幅に削減されている項目もあり、メリハリのある予算となっています(財務省、下記参考資料)。これは、「コンクリートから人へ」の理念の下に行われた予算編成であり、子ども手当の創設や高校の実質無償化をはじめとして、財政を「人への投資」に切り替えようとしたという点で福祉国家型財政と近いものがあります。また、子ども手当に関して言えば所得制限を設けず、子どもを社会全体で育てるという理念もまた、福祉国家的でした。

 しかしながら、財源確保という観点から見れば、福祉国家型とは言い難いです。福祉国家型の場合、福祉サービス充実のための財源は増税に求められています。他方で民主党は、福祉サービス充実のための財源を増税ではなく、「ムダづかい」をなくすことや埋蔵金の活用などによって捻出しようとしました。その典型として注目されたのが「事業仕分け」でした。この点は福祉国家型とは異なります。

 普天間基地問題などを背景に支持率を下げた鳩山首相は2010年6月に退陣し、菅首相が誕生しました。菅首相は所信表明演説で「強い経済・強い財政・強い社会保障」を掲げ、第22回参院選前の民主党マニフェスト発表会では消費税率の引き上げにも言及しました。菅政権発足当初は60%程度の支持率を維持していましたが、消費増税をめぐる首相の発言が2転3転したことなどで支持率を低下させました。それによって参院選で民主党は敗北し、「ねじれ国会」となりました。こうした中で消費増税論議は先送りされることになります。

 2011年3月11日には東日本大震災が発生し、震災対応のまずさもあって菅首相が退陣すると、今度は野田首相が選ばれました。復興のための財源確保は野田政権に引き継がれ、4次補正予算まで組まれるなど、大幅な歳出圧力となりました。復興のための財源は、所得税や法人税などの増税と復興債に求められました。

 野田政権では復興とは別に、菅政権で先送りされた消費増税の議論が再開されました。ここではその過程を詳述しませんが、紆余曲折を経て、消費増税を含む社会保障・税一体改革関連法案は成立しました。この増税分は全額社会保障の充実・安定化に向けられることになっていいます。

 しかしながら、社会保障財源を消費税に求めるのは福祉国家型ではありません。福祉国家型財政においては、基本的に社会保障財源は所得税に求めるのです(過去記事)。また、国税収入全体に占める消費税の割合を見ると、日本のそれは22.1%ですが、他方で消費税率が25%と日本よりはるかに高いスウェーデンでも、国税収入全体に占める消費税の割合は22.1%でほとんど変わらないという指摘もあります(注;菊池下記参考文献、147-149頁)。こうした点から、民主党の財政運営は福祉国家型財政ではないと言えます。

 

参考文献、資料

・菊池英博『日本を滅ぼす消費税増税』講談社、2012年

・財務省『日本の財政関係資料 平成22年8月』3頁、http://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/sy014_22.pdf (閲覧日:2013年11月4日)

・アラエス「デンマークと日本の税制比較―3、国家財政の税収割合の比較」http://ahlaes.com/post/1089 (閲覧日:2013年11月24日)

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