証券取引に対する課税への道筋―ミンスキー理論
以前にこんな記事を書きました。
簡単にまとめると・・・
金融の自由化に伴い、金融が実体経済を規定するような社会構造に変化してきた一方で、金融危機も発生するようになった、という内容です。今回(次回も)は、こうした状況にどう対処するべきなのか?という問いに対して、証券取引に対する課税という観点からまとめていきたいと思います。
この記事で書いたように、証券取引に対する課税はケインズが提唱したのですが、これを踏まえて更なる理論化を図ったのがハイマン・ミンスキーです。
・ミンスキーの理論
ミンスキーの理論は「金融不安定仮説」と呼ばれます。
この理論の特徴は、ケインズの“不確実性下での意思決定(投資家はすべての情報を完璧に把握できるわけではない)”という考え方を継承しながら、なぜ景気循環が生じるのかを、投資理論において説明した点にあります。
この説明だけではわからないと思うので、もう少し説明を加えます。
・金融不安定仮説の要点―景気拡大局面
この議論の出発点は、企業が投資活動を行う場合に、その原資を外部(金融機関など)から調達することから始まります。
景気拡大局面:
この局面の場合、企業活動は順調に拡大して収益も上がります。収益が上がるため、借入金の返済も順調です。つまり、この局面において投資家は、この企業について楽観的な見通しを持っている状態です。
これは資金調達が容易な状態であると同時に、借入金の比率が高まります。この借入金比率の高まりは、金融機関の「貸し手リスク」(融資した分をきちんと回収できるのかどうか)を高めることになります。金融機関にとってこの状態は嫌なので、返済期限の短い資金(流動性の高い資金)を貸そうとします。
これを繰り返すと、企業は、“流動性が低い実物資本(工場など)を大量に保有する一方で、流動性の高い債券を多く発行する”という財務状態になります。
しかし、こういった景気拡大局面が永遠に続くことはありません。なぜなら、企業の投資拡大から得られる追加的な収益は徐々に低下するからです。
・金融不安定仮説の要点―景気後退局面
景気拡大局面における企業の投資拡大から得られる収益は、徐々に低下してきます。そうなると、企業の借入金の返済能力が疑われてきます。この状況をいち早く読み取った市場参加者(いわゆる格付会社など)がその企業の評価を下げる時、景気後退局面が始まります。
そして企業は資金調達が困難になっていき、その他の市場参加者たちも短期金融市場から脱出し始め、一層資金調達が困難になり、最終的には企業の手元資金を返済に振り向けるも、景気拡大局面で借入金を大量に保有していたため返済できず、あえなく倒産・・・
債務の回収ができずに金融市場がパニック、金融市場の混乱が実体経済にも影響を与え、本格的な不況へ・・・
※リーマンショックをイメージしていただければ、想像に難くないと思います。
・まとめ
以上がミンスキーの金融不安定仮説です。この理論は、金融が実体経済を規定するという構造をうまく理論化しているように思えます。しかし、こうした優れた現状分析をしながら、政策提言自体には独自性は見られませんでした。その提言とは、景気循環が極端にならないように市場をある程度規制し、政府が所得再分配を行うことで消費を喚起することで総需要を安定的に保つことが必要だと言います。つまり、ケインズ主義となんら変わらないのです。金融の不安定性については理論化したものの、証券取引に対する課税には到達しませんでした。
ケインズについては以下。
ケインズが提唱した“証券取引に対する課税”を発展させたのは、ミンスキーと同時代の人物、ジェームズ・トービンでした。国際的な通貨取引に課される税のことを、彼が提唱したことから“トービン税”と呼びます。彼については改めて。
諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか』新潮社、2013年