福祉国家としての税制のあり方―②

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投稿者:       投稿日時:2013/10/20 11:41      
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3 成長分野への投資に伴う税収の自然増

 これまでは税制そのものの改革によって税収を増やそうという考え方に基づいた改革案です。しかしながら、所得税や法人税が景気動向に左右されやすいことや、急速な少子高齢社会の進展に伴う社会保障に対する需要の急増を鑑みると、税制改革の中だけで十分な税収を確保することは難しいと思われます。したがって、税制改革と合わせて何らかの成長戦略を並行して行っていく必要があると思います。

 では、日本における成長分野とはどこか。それは急速な勢いで進展する少子高齢社会の中で需要が増大している、医療や介護などの福祉分野でしょう。総務省統計局『労働力調査』によると、2002年の「医療・福祉」分野は474万人ですが、2010年には653万人まで増加しています。ここまで増加している産業は他にありません。このように、雇用面から見れば医療、福祉分野は成長分野と言えます。

 

 一方でこの分野における労働者の待遇はどうなっているのでしょうか。厚生労働省『賃金構造基本統計調査 付属資料』によると、全産業と比較して、福祉施設介護員やホームヘルパーは給与が低く、勤続年数が短く、離職率が高い傾向にあります。また、同資料の「労働条件等の悩み、不安、不満等」に関する調査では、仕事内容の割に賃金が低いという回答が多くを占めています。これではいくら需要が大きくても就職したいとは思えないでしょう。少子高齢社会の進展で今後確実に需要が見込まれるからこそ、労働条件を改善し、より多くの人にこの分野で就職できるよう支援することで、最終的には成長に寄与し、結果として税収の自然増につながるのではないでしょうか。

 

4 労働市場の整備による納税者の増大

 第3節と関連した話でもありますが、税収を増やすには少しでも多くの人々に働いてもらう必要があります。しかしながら、日本の労働市場が働きたい、もしくは働きやすいと思えるような状態になっていないのが現状です。例えば、「103万円」、「130万円」の壁です。日本には妻の年収が103万円以下の場合は会社員の夫の税負担が軽くなる配偶者控除や、夫が厚生年金に加入している場合には妻の年収が130万円未満なら保険料負担なしで加入できる厚生年金の第3号被保険者の仕組みがあります。こうした制度は主婦のパートの人がもっと働ける場合でも収入の規定枠を超えないよう就業を調節するようになります。これでは働ける人を労働市場から排除しているのと同じなため、撤廃すべきでしょう。また、こうした制度の面だけでなく、待機児童解消のための保育所等の拡充や、企業内に託児所を設けるための支援なども必要かもしれません。このように、とりわけ女性が働きやすいと思えるような労働環境の整備が急務だと思います。

 

 また女性に限らず、職業訓練や失業手当の拡充等によって失業者を早い段階で労働市場へ送り返すような政策も必要です。イメージとしては、デンマークやスウェーデンに見られるアクティベーションです。アクティベーションとは、簡単に言えば失業手当や公的職業訓練、保育所の充実等、労働者が働きやすい環境を政府が積極的に提供することによって雇用を創出しようとするものです。

日本においては、こうした条件が整っていないにもかかわらず労働法制の規制緩和だけを先行したために様々な不都合が生じています。近年失業期間が1年以上に及ぶ長期失業者が増加していることを考えれば、こうした人々に少しでも早く労働市場に戻ってもらう対策が急務です。失業したとしてもできるだけ早く働くことができれば、それは労働者にとって良いことだし、働くということは最終的には税収の増加にもつながっていくと考えられます。

 

おわりに

 福祉国家型の税制に焦点を当て、デンマークと比較しながら、日本ではどのような税制を採るのが望ましいか検討することを目的とした本連載において、第1章では、税制を論じる上での基礎知識についてまとめ、所得税、法人税、消費税におけるそれぞれの性質と問題点について検討しました。第2章では、1990年代後半以降のいわゆる「構造改革」の中で行われた減税と労働法制の規制緩和に焦点を当て、その結果として企業活動は成功したものの、国民側から見れば賃金抑制で所得は増えず、消費は停滞し、企業利益と国民生活が乖離している状態を示しました。第3章では、デンマークと日本の税制について比較し、デンマークは国民負担率が日本と比べてかなり高いということと、税収割合で見た時の主要財源はあくまで所得税で、消費税率25%という高税率でも税収割合は2割で日本と大差がないということを確認しました。本記事では、以上を踏まえた上で、所得税の累進税率強化や課税ベースの拡大、法人税の国際基準の必要性、成長分野への投資に伴う税収の自然増、労働市場の整備による納税者の増大という解決策を提示しました。

 

 この連載で検討してきたように、所得税、法人税の減税や労働法制の規制緩和というサプライサイド政策は、結局のところ国民生活に寄与しません。最終的な目的は企業の成功ではなく、国民一人ひとりがある程度幸福と思える社会をつくることであるはずです。そのための手段として、福祉国家という国のあり方は多くのことを示唆してくれます。日本と比較する国としてデンマークを挙げたのも、国民の幸福度ランキングで1位を獲得しているという点で、学ぶべきことは多いと感じたからです。サプライサイド政策の有効性の無さと福祉国家型社会の幸福度の高さを鑑みれば、デンマーク程の高水準の負担を強いるかどうかは国民の判断に委ねるべきだとしても、日本の向かうべき方向性は福祉国家型社会だと思います。

 最後に、この連載では、「税制」という税金をどう回収するかについては多くを論じた一方で、「財政」という税金をどこにどう配分するかについては多くを論じることができませんでした。財政においては、量出制入という原則があります。これは、支出に応じて収入を確定するという原則です。そもそも財政とは公的な需要を満たすための存在であるから、まずは財政民主主義の原則のもとでこれらのニーズを確定することから論じる必要があったかもしれないと思っております。今後は、税金をどこにどう配分するかについて学び、深めていくことを課題としたい。

 

 

参考文献、資料

・小此木潔『消費税をどうするか―再分配と負担の視点から』岩波新書、2009年、109-112頁

・「『非正規』労働を考える2 負担増と向きあって 大沢真知子さん」『朝日新聞』2012年3月30日付け、朝刊

・宮本太郎『生活保障』岩波書店、2009年、143-145頁。

・厚生労働省『賃金構造基本統計調査(平成19年度)、付属資料』http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/dl/s0718-8c.pdf (閲覧日:2013年1月10日)

・総務省統計局『労働力調査 第4表 主な産業別就業者数』http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.htm (閲覧日:2012年12月11日)

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