日本は福祉国家型財政なのか―日本財政の4類型との比較から(戦後からバブル崩壊手前まで)
前回までは、日本と北欧諸国を比較しながら、具体的な福祉国家型財政を概観することで日本の財政運営と北欧諸国のそれとの違いを確認し、それをもとに社会システムと幸福度の関係についても検討しました。本記事では、以前に類型化した日本の財政のあり方と、ここで確認した北欧諸国の福祉国家型財政、主に福祉国家型財政の3つの要素(こちら)に焦点を当てて比較し、結局のところ日本は福祉国家型財政なのかどうかを検証したいと思います。
1、日本財政の4類型と福祉国家型財政の比較
1-1 戦後復興・経済自立型財政と福祉国家型財政の比較
まずは戦後復興型財政の特徴から振り返ってみましょう。戦後復興型財政の特徴は、終戦処理と経済再建に注力したことです。過去記事の表3-1を見ればわかるように、終戦直後の膨大な借金返済と、焼け野原からの復興を遂げるために経済再建、とりわけ公共事業に重点的に財政を振り向けました。民生安定費にもそれなりに振り向けられていますが、その中身(表3-1では省略、納富ほか下記参考文献、13頁、表1-4参照)を見ると大半は救済及福祉費に充てられており、あくまで戦後復興にかかわる福祉のため、福祉という名目とはいえ今日における福祉国家型財政とは全く異なる中身です。
ドッチ来日後は超均衡予算によって公共事業費や失業対策費、地方配付税などが大幅に削減されました。それに加えて超均衡予算を達成するために徴税も強化されました。この徴税強化は、あくまで超均衡を達成するために行われたものであり、福祉国家型財政のような福祉充実のための徴税強化とは目的が異なるものです。
経済自立型財政も「経済」に注力するという基本的な流れは変わりませんでした。ドッチ・ラインによって経済再建は一応一段落し、経済自立化と国際競争力強化へ向けて、公共事業をはじめとする経済基盤の充実を図りました。この時期の経済自立化に向けた政策は、税制面でも導入され、所得税を中心とした大幅な減税が実施されました。つまり、公共事業と減税を中心に経済自立化を図ったというのが経済自立型財政の大まかな枠組みです。
このように、戦後復興・経済自立型財政は、戦後復興と経済再建・自立化に焦点を当てた財政運営だったため、社会保障に関しては重要項目ではなかったし、戦後直後だったために社会保障を充実させる余裕もなかったのです。また、ドッチ・ラインにおける徴税強化も、超均衡予算が目的であったという点から、福祉国家型財政の増税の目的とは異なります。したがって、戦後復興・経済自立型財政は福祉国家型財政ではないと言えるでしょう。
1-2 開発主義国家型財政と福祉国家型財政の比較
開発主義国家型財政の特徴は、戦後復興・経済自立型財政で作られた財政運営を土台として、それを一層強化したものでした。改めてまとめると、①公共事業を通じた間接的な雇用保障(=企業支援)②高度成長による負担増を避けることと、強力な租税誘因を目的とした大規模な減税政策③金利的に優遇することでその減税分を貯蓄に回させ、その貯蓄を財政投融資(≒公共事業)に回すという循環によって、高度成長を実現しました。つまり、経済成長を最優先事項としていたため、増大する財源を政府サービスではなく減税に充当したのです。
一方の福祉国家型財政は、政府サービスを充実させながら国民負担も引き上げるというスタンスをとりました。また、経済成長のプロセスを見ても、日本のような企業を通じた間接的な雇用保障ではなく、社会保障と雇用をうまく結合させた直接的な雇用保障によって経済成長を実現しています。したがって、経済成長のプロセスが全く異なるという点で、開発主義国家型財政は福祉国家型財政とは言えないでしょう。
1-3 ケインズ主義型財政と福祉国家型財政の比較
ケインズ主義型の特徴は、有効需要を喚起するための大規模な財政出動でした。不況対策としての財政出動という点で開発主義国家型財政とは役割の異なる公共事業ではありますが、公共事業を通じて間接的に雇用を創出・維持しようとする財政のあり方は、社会保障と雇用を結合させた福祉国家型財政とは異なることは明らかです。また、大規模な財政出動によって財政赤字が急増し、財政的な規律が緩んでいると言わざるをえません。この点からも、財政収支の黒字化を実現している福祉国家型財政とは異なると言えるでしょう。
1-4 歳出抑制型財政と福祉国家型財政の比較
最後に歳出抑制型財政の特徴を振り返ります。歳出抑制型財政は、70年代に累増した財政赤字を立て直すことに主眼を置いたもので、増税しないことを前提に、シーリング方式を採用して社会保障や文教、公共事業、地方財政などの経費を抑制しながら、「小さな政府」を志向したことが特徴です。増税しないことを前提にと書いたが、実際には1979年に一般消費税導入の是非を問うた選挙で、与党の自民党が大敗したことを受けての歳出抑制型財政への舵切りでした。この増税案の目的は財政赤字の累増を背景とした財政再建にあったので、自民党の大敗はそれに対してノーを突きつけられたことを意味します。増税を否定されたので、財政赤字を立て直すには歳出抑制しか選択肢がなかったのです。そこで行われたのが第3章で検討した社会保障をはじめとする大規模な歳出抑制でした。
したがって、社会保障を含めた様々な経費を抑制した点、増税を試みた時の目的が社会保障ではなく財政再建に置かれていたという点から、歳出抑制型財政は福祉国家型財政とは言い難いでしょう。
参考文献
・納富一郎、岩元和秋、中村良広、古川卓萬『戦後財政史』税務経理協会、1988年、13頁