日本財政の類型化―4、歳出抑制型財政

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3-1 財政赤字累増の背景

 1970年代に入ると、ニクソンショックや石油ショック等を背景に、高度成長は終焉することとなり、いわゆる安定成長へと移行していきました。この移行に伴い、総需要喚起ために本格的な財政金融政策が発動されました。70年代最初の課題としては、石油ショックを原因とする急激なインフレをどう終息させるかでした。その手段として使われたのが財政金融政策です。この時の景気引き締めによってインフレは抑制されたものの、経済成長は鈍化し、74年には戦後初めての実質成長率ゼロを記録しました。この景気引き締めによって景気回復は遅れたため、75年には一転して政府は景気刺激策を採用しました(注;財政金融政策の流れについては石、下記参考文献、331頁、表10.2が詳しいです)。

 日本経済が景気浮揚に苦労していた70年代は、世界的に見ても不況でした。そこで世界同時不況を恐れた国際社会は、78年のボン・サミットでアメリカ、西ドイツ、日本による「機関車論」を打ち出し、不況対策として財政出動を喚起しました。このための財源は国債発行による調達でした。また、こちらでも触れたように、70年代は社会保障制度が整備された時期でもあり、これも歳出増加圧力となったことで財政赤字が累積していきました。

 

3-2 財政再建気運の高揚

 こうして積み重なった財政赤字に対する問題意識は次第に高まり、財政赤字の削減、つまり財政再建が大きな政策課題となってきました。1979年の一般消費税の導入という議論からもわかるように、政府は財政再建のため、増税は不可避と考えていました。しかし、一般消費税導入の是非を争点とした衆院選で与党の自民党が大敗し、一般消費税は挫折しました。これを受けて、政府の財政再建に対する考え方は大きく転換しました。これについては、以下に引用する1979年12月21日の「財政再建に関する決議(注;石、下記参考文献、346頁)」を見るとよくわかります。

 

財政再建に関する決議(1979.12.21)

 国民福祉充実に必要な歳入の安定的確保を図るとともに、財政によるインフレを防止するためには、財政再建は、緊急の課題である。

 政府が閣議決定により1980年度に、導入するための具体的方策として、これまで検討してきたいわゆる一般消費税(仮称)は、その仕組み、構造等につき十分国民の理解を得られなかった。従って財政再建は、一般消費税(仮称)によらず、まず行政改革による経費の節減、歳出の節減合理化、税負担公平の確保、既存税制の見直し等を抜本的に推進することにより財源の充実を図るべきであり、今後、景気の維持、雇用の確保に十分留意しつつ、歳出、歳入にわたり幅広い観点から財政再建策の検討を進めるべきである。

 右決議する。

 

 この決議から、財政再建は①行政改革(歳出削減)②不公平税制の是正、つまり「増税なき財政再建」という方向で進められることとなります。中でもより重点を置かれたのが①であり、これを中心に本格的な行政改革が始動しました。

 

3-3 財政再建の中身

 では、実際に中身について見ていきましょう。

 

表3-4 一般会計予算の主要経費別内訳の推移

年度

事項

56

57

58

59

60

国債費

66,542(25.3)

78,299(17.7)

81,925(4.6)

91,551(11.7)

102,241(11.7)

地方交付税

80,835(23.5)

92,309(14.2)

73,151(△20.8)

88,864(21.5)

96,901(9.0)

一般歳出

320,504(4.3)

326,200(1.8)

326,195(△0.0)

325,857(△0.1)

325,854(△0.0)

(内訳)

 

社会保障関係費

88,369(7.6)

90,849(2.8)

91,398(0.6)

93,211(2.0)

95,737(2.7)

文教及び科学振興費

47,349(4.8)

48,525(2.5)

47,970(△1.1)

48,323(0.7)

48,409(0.2)

恩給関係費

18,030(9.9)

18,918(4.9)

18,901(△0.1)

18,859(△0.2)

18,637(△1.2)

地方財政関係費

6,831

4,056

3,578

1,829

防衛関係費

24,000(7.6)

25,861(7.8)

27,542(6.5)

29,346(6.55)

31,371(6.9)

公共事業関係費

66,554(0.0)

66,554(0.0)

66,554(0.0)

65,200(△2.0)

63,689(△2.3)

経済協力費

4,254(11.2)

4,712(10.8)

5,043(7.0)

5,439(7.9)

5,863(7.8)

中小企業対策費

2,501(2.5)

2,501(0.0)

2,427(△2.9)

2,292(△5.5)

2,162(△5.7)

エネルギー対策費

4,975(17.3)

5,632(13.2)

5,977(6.1)

6,032(0.9)

6,288(4.2)

食糧管理費

9,948(4.1)

9,903(△0.5)

9,134(△7.8)

8,132(△11.0)

6,954(△14.5)

その他の事項経費

44,193(3.3)

45,189(2.3)

44,171(△2.3)

43,694(△1.1)

43,244(△1.0)

予備費

3,500

3,500

3,500

3,500

3,500

昭和56年度決算不足補てん繰戻

22,525

合計

467,881(9.9)

496,808(6.2)

503,796(1.4)

506,272(0.5)

524,996(3.7)

(注)1、比較対照のため60年度予算ベースに組み替えたものである。2、()内は、対前年度伸び率である。

(出所:納富ほか、下記参考文献、384頁、表8-3)

 

表3-4は一般会計予算の主要経費別内訳の推移を示したものです。まず大きな枠組みとして言えることは、一般歳出の対前年度伸び率が年々減少しているという点です。また、昭和57年度(1982年)予算の主要経費の内訳を見ても、社会保障関係費は対前年度伸び率が昭和56年度(1981年)予算の7.6%から2.8%、文教及び科学振興費は4.8%から2.5%、恩給関係費は9.9%から4.9%へとそれぞれ圧縮されています。公共事業関係費に至っては56年度から58年度までは0.0%の伸び率、それ以降はマイナスの伸び率です。地方財政に関しては額面のみの表示となっていますが、同様に圧縮されていることがわかります。他方で防衛関係費や経済協力費は、歳出抑制という流れの中では例外的に高い水準を維持しています。

 

 80年代後半に入っても、引き続き行政改革は進められました。その中で最も国民の関心を集めたと思われるものが3公社の民営化です。行政改革を推進する基本理念には、「増税なき財政再建」のほかに「小さな政府」志向もありました。当時の政府には膨大な無駄、非効率が存在するという国民の批判から、政府規模を小さくし、浪費を極力減らそうという「小さな政府」志向は財政健全化の重要な政策目標でした。

 「増税なき財政再建」のための厳しいシーリング方式(注;シーリング方式についてはこちら)や「小さな政府」志向に伴う3公社の民営化によって、財政再建は一応の達成をみました。しかしながら、こちらでも触れたように、バブル景気に依存した財政再建であったことも忘れてはなりません。

 このように、80年代の財政のあり方は、70年代に累増した財政赤字を立て直すことに主眼を置いたものでした。繰り返しますが、増税しないことを前提に、シーリング方式を採用して社会保障や文教、公共事業、地方財政などの経費を抑制しながら、「小さな政府」志向のもとで3公社の民営化を図ったことがこの時期の特徴です。防衛関係費や経済協力費という、いわゆる総合安全保障関係費のような歳出が増大した項目があるという点は留意すべきですが、全体としては財政再建のために増税ではなく、歳出抑制を推進したという点では歳出抑制型財政と呼ぶべき財政運営でした。

 

ここまで、時期区分的にはバブル崩壊以前までの財政運営のあり方について、大きく3つの型に分類しました。バブル崩壊以降の財政運営に関しては、結論から言えば、これまでに分類した開発主義国家型財政と歳出抑制型財政のどちらかを当てはめることで説明ができます。例えば、バブル崩壊から小泉政権期までは開発型、小泉政権期は歳出抑制型、民主党政権期は若干例外で、次回以降に説明するような福祉国家型への転換を図ろうとしたが失敗、現在の第2次安倍内閣は開発型、といった具合です。これについてはまた改めて触れることとします。

 

参考文献

・石弘光『現代税制改革史』東洋経済新報社、2008年、325-333、337-355頁

・納富一郎、岩元和秋、中村良広、古川卓萬『戦後財政史』税務経理協会、1988年、379-431頁

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