幸福度の高い社会へ―1、なぜ福祉国家型財政が必要なのか1-2ニーズの変化
1-2 ニーズの変化
企業のグローバル化、ポスト工業化、雇用環境の変化、女性の社会進出といった大きな変化は、これまでの財政ニーズにも影響を与えます。例えば、日本型雇用の解体と非正規雇用の増大は、かつてよりも失業しやすくなることを意味するので、失業給付の充実や職業訓練の拡充というニーズを生み出します。まず、日本ではそもそも失業給付を受給している人の割合が失業者の約2割しかいないということはすでに触れた。また、非正規雇用の場合、雇用保険加入には様々な制約があり、未加入の非正規労働者が1006万人、未加入率が58%という推計がある(注;宮本下記参考文献、56頁)。更に非正規労働者は、就労が断続的であったり、労働時間が短いことなどから、厚生年金や健康保険に加入できないことが多いです。加入できたとしても、低賃金ゆえに保険料を支払うことができない場合もあります(同上56頁)。更に、このような人々が安定した仕事を求めて技能蓄積を図ろうにも、過去記事で見たように職業訓練をはじめとした積極的労働市場政策への支出が極端に低く、技能蓄積を図れません。つまり、現在の非正規労働者の割合が38.2%に上り、決して無視できない存在であるにもかかわらず、彼らを全く包摂できていないのです。しかしながら、グローバルな競争が激しくなる中で、かつてのように技能蓄積を企業に求めるのには限界もあります。その証左が90年代の労働法制の緩和要求なのでしょう。だからこそ、公共部門での職業訓練が必要なのです。
女性の社会進出もまた、新たな財政ニーズを生み出します。女性が労働市場に参加するということは、必然的に保育サービスの拡充が求められてきます。しかしながら、日本の子育て支援は現金給付に偏っているのが現状です。労働参加で女性が家庭にいないわけだから、現代における本当のニーズは現金給付ではなく現物給付でしょう。また、保育関連の雇用創出という観点から見ても、現物給付のほうが望ましいと思われます。
このように見ると、様々な社会変化を通して、これまでの公共事業を通じた間接支援から社会保障を通じた「人」への直接支援へと財政ニーズがシフトしていることがよくわかります。しかしながら、こうしたニーズに応えきれず、経済的、社会的危機が顕在化しているのが現代日本です。財政とは、そうした危機を解消するためにあるのです。危機を解消するために、福祉国家型財政が必要なのです。
参考文献
・宮本太郎『生活保障』岩波書店、2009年