アダム・スミスはなぜ、消費課税に反対したのか
近年の日本の消費税引き上げ論争の参考になるかと思うので、まとめてみます。
・スミスは消費課税反対論者
大まかな主張の要約:
①:個人の支払い能力に応じた課税を実現するためには、本来は所有または所得に応じて課税されるべき。 しかし、消費課税は人々が支出するその程度に応じて税負担を課すことになるので、不平等だという指摘
②:消費課税の負担は価格に転嫁されて物価高騰を起こし、結果として経済に悪影響を与えるから、経済政 策的な観点からも望ましくないという指摘
上記2点の詳細なことは、『国富論』第5編に書かれている
しかし、消費課税批判を検討する前に、スミス以前は、消費課税がほかの租税より望ましいと言われていたことを確認する必要があります。
・消費課税が望ましいとする論拠
(1)課税の公平性:当時のイギリスでは、消費はその人の支払い能力、つまり所得の代理指標とみなすことができるので、間接的に応能負担を実現できると考えられた。
(2)貧者への負担軽減:生活必需品に軽課、奢侈品に重課することで、逆進性を緩和させようというもの。⇒今日の軽減税率
(3)「倹約」の奨励:「消費」に課税すれば無駄なものを買わなくなるので、「倹約」を奨励し、勤勉な人が報われる。これは公平性にもかなう。また、倹約は貯蓄と投資を促すことにもなるから、国富の発展さえ導く。つまり、経済政策的観点からも消費課税は望ましいと考えられた。
☆スミスは主に(1)(3)を批判した。(2)については、下記文献を読む限りではわかりませんでした。
・課税の公平性という観点からの批判
(1) のような考え方はあくまで政策側の意図(理念)にすぎず、現実とは異なると指摘
Ex.浪費家は自分の収入以上に納税し、倹約家はそれ以下しか納税しない
⇒理念と現実は乖離し、公平性にかなっていないと指摘
・経済政策的観点からの批判
スミスの租税転嫁論を応用して批判
消費課税導入→生活必需品の価格上昇→それをカバーするため賃金上昇→企業のコスト増
上記の流れの中で、賃金の上昇が実現しない場合でも…
⇒貧民が貧困状態におかれ、その家族を扶養する能力が失われる
更に、消費課税は重複課税を引き起こす
⇒製品が原料から何段階も経て最終製品に至る間に、複数回課税されるということ。
重複課税については、現代では「仕入れ税額控除」という仕組みがありますが…
詳しくはこちらで。
☆こうして複数の論拠を挙げて消費課税を批判した。ここまで批判した理由については、スミスの全経済学体系を理解すると見えてきます。これについては改めて書きます。
参考文献
・諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか―租税の経済思想史』新潮社、2013年、49-56頁