なぜ、生活保護受給者は増大したのか

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投稿者:       投稿日時:2013/12/12 10:03      
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前回は生活保護制度の概要についてまとめました。今回はそれを踏まえた上で、なぜ、 生活保護受給者が増大したのかについて、考えていきたいと思います。

 

・生活保護受給者増大の背景

生活保護制度そのものの問題点だけではなく、生活保護を取り巻く周辺の制度との関係の中で、いくつかの要因が存在します。したがって、ここでは生活保護制度を取り巻く周辺制度に焦点を当てて受給者増大の背景を検討します。生活保護制度そのものの問題については、別途書きたいと考えております。

 

 

・受給者の構成

2010年度の受給者の構成比:

「高齢者世帯」42.9%、「母子世帯」7.7%、「傷病者世帯」21.9%、「障害者世帯」11.2%、「その他の世帯」16.2%

⇒受給者の半数近くが高齢者世帯となっている(国立社会保障・人口問題研究所のデータ)

 

・なぜ、高齢者世帯の受給者が多いのか

⇒不十分な年金制度が関係

日本年金機構HPによると、老齢基礎年金を満期の40年間納めた場合の受け取れる金額は、平成24年度で年額786,500円、月額では約66,000円

※これには住宅費や医療費、介護費などは加味されていないので、最低生活保障が困難

 

☆そもそも年金制度自体の趣旨が老後の生活すべてを賄うようには設計されておらず、あくまで食費を中心とした老後の生活の「基礎部分」を賄うものと考えられている。

⇒年金とは、かつての所得の一部を支給することを目的としているので、最低限の生活を保障するものではない

⇒年金制度が最低限の生活を保障するものではないために、今まで働いてきた分の貯蓄が十分でない高齢者が退職した後に最低限の生活ができずに生活保護へ流れるという構図

 

※年金との関連で言うと、近年の国民年金の納付率の低下も重要。要因としては年金制度に対する不信や、そもそも保険料が支払えないワーキングプアの増大が考えられます。国民年金の納付率が低下するということは、年金の受給できる額が減額、または無年金という状況も考えられます。こうした状況の人々が増えれば、生活保護受給者が増大するのは必然と言えるでしょう。以上が1つ目の受給者増大要因です。

 

・雇用との関連

⇒不安定な非正規労働者の拡大によるもの

かつての日本においては、日本型雇用と呼ばれる終身雇用が第一のセーフティネットの役割を果たしていましたが、近年の非正規労働者の増大によって、終身雇用というネットはもろくなっています。こうしてもろくなった雇用からこぼれた人を受け止める失業給付も受けられる人が減っているのが現状です。

 

・具体的には?

経済の低迷に伴う失業者の増加

⇒国立社会保障・人口問題研究所によると、2008年以降「その他の世帯」が増大しています。「その他の世帯」とは、働きながら生活保護を受けている母子世帯を除いた世帯がそれに当たります。すなわち働く能力のある失業者が生活保護受給者になったことを示しています。「その他の世帯」は08年に10.6%であったが、09年には13.5%、10年には16.2%と増大しています。リーマンショック以降の経済低迷で、多くの非正規労働者が派遣切りに遭った結果と考えられます。本来ならば失業した場合は雇用保険がセーフティネットの役割を果たし、失業給付が受けられるはずなのですが、非正規労働者の中には雇用保険に加入していないために失業給付が受けられず、直接生活保護を受けることになるのです。

 

※日本の場合、失業者のうちの約2割の人しか失業給付を受け取っていないという研究もあります(後藤道夫『ワーキングプア原論』)

 

・長期失業者の増大

⇒本田良一氏によれば、1990年時点では失業者のうち1年以上の長期失業者は19.1%でしたが、2007年には32.0%に達するという。このように1年以上の長期失業者が増大しているにもかかわらず、失業給付の期間は原則として最長で330日なので、失業給付からこぼれて生活保護を受けるという形になっているのです。以上のように、非正規労働者が増大することによって雇用というセーフティネットからこぼれる人が増えたこと、雇用のセーフティネットからこぼれた人を支える失業給付が貧弱であるというダブルパンチによって、生活保護を増大させていることが言えます。

 

・貧困や教育、学歴との関連

貧困や教育、学歴は密接に関連しています。週刊ダイヤモンドに掲載されている大阪府堺市健康福祉局理事の調査によると、生活保護家庭の4分の1は世襲です。具体的に見てみると、全体のうち、過去に育った家庭も受給世帯の割合は25.1%で、母子家庭に至っては40.6%です。また、全体のうち世帯主が中学卒の割合は58.2%です。

別のデータもあります。これも同じ週刊ダイヤモンドに掲載されているもので、父の学歴によって子の収入も変わることを示しています。具体的に見ると、父が大卒の場合の子の収入は、年収650万円以上が5割弱を占め、年収300万円未満は2割弱にとどまる。一方で父が中卒の場合の子の収入は、年収650万円以上は3割弱に過ぎず、年収300万円未満は2割強です。また、就学援助率と学力の関係を表すデータもあり、就学援助率が高い地域では学力調査の平均点が低いという結果が出ている。これらがいわゆる貧困の連鎖です。

 

このように、生活保護を取り巻く周辺制度が貧弱なために、そのつけを生活保護が賄っているのが現状です。

参考資料・補足など

・本田良一『ルポ 生活保護 貧困をなくす新たな取り組み』中公新書、2010年
・阿部彩『経済教室 生活保護制度を考える(上)』日本経済新聞、2012年7月24日朝刊
・岡部卓『経済教室 生活保護制度を考える(下)』日本経済新聞、2012年7月25日朝刊
・『生活保護法』http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO144.html (閲覧日:2012年10月9日)
・国立社会保障・人口問題研究所HP『世帯類型別被保護世帯数及び生活保護率の年次推移』
http://www.ipss.go.jp/s-info/j/seiho/seiho.asp (閲覧日:2012年10月9日)
・日本年金機構HP『年金の受給(老齢年金)』
http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=3221 (閲覧日:2012年10月10日)
・『週刊エコノミスト』2012年8月13日号、p125~127
・『週刊ダイヤモンド』2008年8月30日号、p35~41
・『図表でみる教育 OECDインディケータ(2011年度版)』
http://www.oecdtokyo2.org/pdf/theme_pdf/education/20110913eag.pdf (閲覧日:2012年10月11日)

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