福祉国家の形成をめぐる諸理論

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投稿者:       投稿日時:2013/10/15 12:29      
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福祉国家の形成をめぐる議論として、①ウィレンスキーによる「社会経済視角」②コルピらによる「権力資源の動員」③エスピン・アンデルセンによる「連合の理論」が挙げられます。ウィレンスキーは社会経済視角から、社会保障支出の対GNP比が増大する要因を検討しました。具体的な内容は、①一人当たりGNP②政治体制③エリートイデオロギー④65歳以上の高齢者が社会に占める割合⑤社会保障制度の経過年数などの検討です。この結果、経済成長が出生率の低下と高齢化を招き、このことが社会保障の需要を高めることで福祉国家の形成を促すと主張しました。しかし、経済成長を遂げたアメリカ、スウェーデン、ドイツなどを比較すると、彼の主張が一概には当てはまらないことは明らかです。

 

 ウィレンスキーに疑問を呈したコルピらは、「権力資源の動員」という視点から、経済成長の担い手ではなく、福祉政策を掲げる政党の台頭や、労働組合の組織率が上昇するほど、福祉国家の制度化が進むという主張です。しかし、左派が多数を獲得している国がほとんど見当たらず、「50%の壁」を突破することが困難だという点から、権力についての単線的な見方は間違いだと言えます。

 

 ウィレンスキーやコルピらに対する批判を踏まえて、エスピン・アンデルセンは政策形成をめぐる「連合」を重視し、福祉国家の三類型を試みています。「権力資源の動員」を基盤としつつも、「50%の壁」を突破するためには社会の多数派がいかなる組み合わせで政策形成を行うかという点を重視しました。

 彼は福祉サービスの供給をめぐる国家・市場・家族など多様な役割の総体を「福祉レジーム」と規定し、その三類型を行いました。「自由主義的福祉レジーム」は、スティグマを伴うミーンズテスト付きの扶助で、資産格差に応じた福祉、民間保険の役割が大きく、市場を重視した福祉となっています。典型としてはアメリカが挙げられます。

「保守主義的レジーム」は、職能的地位の格差が反映された制度を特徴とし、伝統的家族制度も維持されたレジームであり、ドイツがその典型です。

「社会民主主義レジーム」は、拠出者と受益者の一致、完全雇用などを特徴とし、ある程度の「普遍主義」を実現しています。また、出産や再教育などの理由で一時的に労働市場から離脱できる「脱商品化」も実現しています。更に自由主義下での「資産格差」、保守主義下での「職能格差」など他のモデルが抱える問題も克服しているモデルです。

 

参考文献

・G・エスピン・アンデルセン『福祉資本主義の三つの世界』ミネルヴァ書房、2001年

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