法人税減税をどう見るか
法人税減税の要求はずいぶん前から言われています。下記の参考資料にもあるように、財界は法人税減税を求めています。今回は新聞記事を皮切りに法人税減税に効果はあるのかについて、自分なりの考えを述べたいと思います。
結論から言えば、何を目的にするかによって法人税減税の効果の有無は変わってくると思います。①日本企業の国際競争力強化を目的とするのであれば一定の効果があると思うし、②日本企業の流出を止めることを目的とするのであれば大きな効果はないと思います。
①の根拠としては、一般に言われる「日本の法人税率は他国に比べて高い」という点です。実際、税率だけ見れば確かに高いので、単純に考えてこれを国際的に平均的な水準まで下げれば国際競争力を強化され、企業収益が増大することは予想できます(競争力強化というよりは他国と同じ舞台に立てると言った方が正確でしょうか)。ただ、税率だけでなく、社会保険料事業主負担も含めた企業負担の国際比較をみれば、日本の企業負担はいうほど大きくないというのが個人的な考えです。ただ、税率の高さという観点からだけで見れば一定の効果はあると思われます。また、税率の下げ具合によっては海外企業の誘致もできると思うので、この点でも効果があると言えるでしょう。
②の根拠としては、企業が海外投資をする際の主因が税制ではないという点です。経産省の調査によれば、海外投資を決定する際のポイント(該当する項目を3つまで選択可)として「現地の製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」が73.3%、「良質で安価な労働力が確保できる」が23.5%、「税制、融資等の優遇措置がある」が9.7%となっています。つまり、企業が海外投資をする際には税制ではなく、投資先に需要があるかどうかを最大の決定要因にしているのです。この点から、企業の海外流出を止めるという目的での法人税減税は無意味であることがわかります。
今日における法人税減税の議論はどちらかといえば①を目的としたものだと思われるので、仮に減税された場合には一定の効果を上げるかもしれません。しかし、企業収益が上がったところで、それが労働者の賃金に反映されなければ、何も意味がありません。企業の利益率の長期推移と平均所得金額の年次推移を突き合わせてみると、小泉政権時の好況期に利益率は伸びているものの、賃金は伸びていません。これは企業収益の上昇が賃金に反映されにくい状況を示しているのではないでしょうか。企業収益の拡大を最大の目的とするのであれば法人税減税は正しい方向性だと思います。しかし、国民の生活を豊かに(満足度を高くする?)するということを目的とするのであれば、法人税減税では根本的な解決にはならないと思います。また、賃金が上がらなければ国内需要も低迷を続けるので、国的にもメリットがないように思います。
法人税減税に限らず補助金なども含めて、「企業」を支援することで国の発展を図る時代は終わったのかもしれません。「企業」ではなく「個人(労働者)」を支援するような仕組みに切り替える時期が来ているように思います。
〈参考資料〉
・「法人減税、求める声強く」『日本経済新聞』2013年6月13日付け、朝刊
・経済産業省『海外事業活動基本調査 投資決定のポイントについて』
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/result/result_42.html (閲覧日:2013年6月13日)
・厚生労働省『図13 1世帯当たり平均所得金額の年次推移』
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/2-1.html (閲覧日:2013年6月13日)
・財務省『社会保険料事業主負担及び法人所得課税の税収の国際比較』
http://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2010/zei001e.htm (閲覧日:2013年6月13日)
・社会実情データ図録『企業の利益率の長期推移』
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4600.html (閲覧日:2013年6月13日)