科学技術と生命倫理について
科学技術と生命倫理について考えてみます
※そもそも、なぜ生命倫理(バイオエシックス)が考えられるようになったのか・・
→・医療において、患者の考えを無視する医師の権威主義(パターナリズム)が
問題視されるようになったから
・医療技術が発達してきて、生命工学(バイオテクノロジー)などが注目されるようになり
人間の生死や精神状況など、医療において新しい考え方が求められるようになったから
→このような考え方を元に、様々な生命倫理が考えられるようになり、議論がされている
→医療の技術の発達によって生じた倫理的な問題には、以下のようなものがある
・人工授精について
・人工授精とは・・性交をせずに、男の人の精子を注射器で女の人の子宮に入れて、
妊娠させる技術のこと
・人工授精のメリットとデメリット
・メリット-・子どもに恵まれない夫婦でも、子どもを授かることができる可能性がある
・夫の精子が少ない時など、非配偶者(夫以外)の精子でも
子どもを産むことができる
・デメリット-・精子が非配偶者のものだった時に、親権が誰になるのか、
という問題が発生する
・子どもにどこまで話をするかどうかが難しい
・体外受精について
・体外受精とは・・精子と卵子を試験管の中で受精させて子宮に着床させること
・体外受精の問題点
・妻自身が出産する場合と、妻以外の女性に依頼する代理出産がある
→代理出産の場合-・代理出産をする母との親権が誰になるのかという問題が発生する
・女性の出産を商品として捉えてしまっている面があるのではないか、
という問題がある
※最近では、体外受精させた受精卵の中で、実際に使われなかった受精卵を
有効に利用しようと考えられている
→しかし、受精卵の有効利用にもメリットとデメリットがある
・メリット・・・もしかしたら、難病を解決できるかもしれない
・デメリット・・受精卵を実験に使う=人の命を1つ無くす、という考え方につながり、
もしかしたら、その受精卵も人間になっていた可能性もあり、
生命の尊厳という倫理に反することが考えられる
・クローン技術について
・クローン技術とは・・ある個体の細胞から核というものを取り出して、その核を、
核を取り除いてある他のまだ受精していない卵に移して、
電気ショックを与えることで細胞分裂させた卵子を
子宮に移すという技術のこと
・クローン技術のメリットとデメリット
・メリット・・・核を提供してくれた人と全く同じ遺伝子を持つため、
良い動物を増殖させたり、絶滅危惧の可能性がある生物の絶滅を
防いだりする可能性がある
・デメリット・・全く同じ遺伝子のため、クローン人間を可能にしてしまい、
個人情報が保護しづらくなる
・最近のクローン技術について
→・最近では、ES細胞(胚性幹細胞)を使って、将来的に自分の臓器を
自分の細胞で作るという、再生医療を可能にしたが、日本では、
難病治療の研究以外でES細胞を使うことは原則禁止としている
※ES細胞・・体の全ての組織になる可能性のある、最初の段階の受精卵の細胞のこと
※日本では、2001年にクローン技術規制法が作られ、
倫理的な観点からクローン技術の使用が規制されている
※クローン技術の大きな一歩は、1997年にイギリスでクローン羊のドリーが
生まれたことだと言われている
=これは、人間も含めた哺乳類が、性に関係なく子孫を残すことが
できるようになったと言われている
・ヒトゲノムについて
・2003年に世界でヒトゲノムの解読が完了したことが大きな話題となった
→どういうことか・・
・ヒトゲノム(人間が生きる上で必要となるレベルの染色体の1組に
含まれる全ての遺伝子情報のこと)を解読することで、
DNAの塩基の配列を読み取ることができたと言われている
※DNA・・細胞核の染色体の上にある四つの塩基で出来ている、
遺伝情報の中心となる物質のこと
→ヒトゲノムの解読の完了の次に、
配列の意味(=遺伝情報)を解明することが期待されている
・遺伝情報が解明されるメリットとデメリット
・メリット・・・もし遺伝情報が解明されると、
→・個人の体質にあった薬を作ることができるようになる
・遺伝子を操作して、遺伝による病気を治してしまう可能性がある
(=遺伝子治療)
・デメリット・・遺伝の情報は、ある意味で究極の個人情報であり、
遺伝の情報を管理することが難しい
・終末医療の問題について
・人間の死について
→人間の理想の死に方は老衰による自然死だと言われている
※このような考え方から医療では、生命を守ることが大切なため、
生命に価値を置く考えが重視された
=この考え方は、生命の尊厳(SOL)を重視する立場に立っていると言われている
→しかし、現代の医学では、新しい考え方が生まれてきた。それが尊厳死と安楽死だった
・尊厳死・・回復の見込みのない病気に関して、死ぬ時期を早めてでも、
苦痛にしかならないような延命措置を辞める考え方
(意図的に死なせるのではなく、単純に延命治療を辞めるだけという考え方)
※尊厳死は、患者の自己決定権を重視していると言われている
・安楽死・・苦痛を避けるために、薬を使うなどして、
意図的に患者を死なせる考え方のこと
→この2つの考え方の根底には、自分の残りの命を充実したものにしたい
という考えがあると言われている
=この考え方は、生命の質(QOL)を重視する立場に立っていると言われている
※ただし、生命の質は、命自体に価値の違いがあると考えているわけではない
・最近の考え方について
→最近は、ヒポクラテスという人が考えた、ホスピス=ケアという考え方が注目されている
※ホスピス=ケア・・延命措置をしないで、治療よりも介護を重視しようとする考え方
→この考え方は、生命の質を大切にすることができると言われていて、
患者の残りの生活を充実させようとする動きが見られる