近代的自我の確立 -北村透谷、ロマン主義、夏目漱石、森鴎外、社会主義思想の移入について-
近代的自我の確立を中心に、社会主義思想の移入までを考えます
・近代的自我の考え方とロマン主義の考え方について
※近代的自我とは・・自分を心の面などから支えるという考え方のこと
→この近代的自我の登場以降、ロマン主義を軸に様々な考え方が生まれた
・北村透谷-・ロマン主義を提唱した
※ロマン主義・・ヨーロッパで誕生したもので、
感情や個性、自然などを表現した文学運動のこと
・文学は、自分の内部を表現できるものだと考えて、
文学で自分の考えを表現しようとした
・目に見える現実(=実世界)の利益や幸福を追求することに対して、
目に見えない自分の中の心の部分(=想世界)を自由にさせたり
独立させたりすることが大切だと考えた
・島崎藤村-・新体詩を書いた「若菜集」という詩集を出した
・その中で自我のめざめと苦しみを新鮮な感覚で歌った
※新体詩・・西洋の文化の影響を受けた新しい形式の詩のこと
当時は、和歌や俳句は考えや感情を表現するのには
不十分だと考えられた
・与謝野晶子-・「みだれ髪」という歌集を出した
・情熱的な短歌を作り、自分の欲望や官能を肯定する考え方を示した
・国木田独歩-・「欺かざるの記」という本を書いた
・今までの道徳や考え方に縛られずに、自分の欲望や
自分自身の感覚などによって、物事に直接触れるべきだと考えた
・田山花袋-・ゾラの影響を受けて、「蒲団」という本を発表し、自然主義を提唱した
※自然主義・・自分の心のダメな部分や暗くでどうしようもない現実世界を
ありのままに表現しようとする考え方
・石川啄木-・「時代閉塞の現状」という本を書いた
・弱々しい心を描く詩人だったが、「時代閉塞の現状」の後から、
社会主義に変わっていった
→上の人達は、ロマン主義や自然主義を基礎にしながら、新しい自我の在り方を独自に探した
・近代的自我の考え方を追求した人達
→代表的な人に夏目漱石と森鴎外がいる
・夏目漱石-・日本の近代化は、表面は華やか(外発的開化)だが、
人間の心の面から(内発的開化)ではないと考えた
→西洋文化に圧迫された近代化であり、
自分の心の面(内面)からの近代化ではないと考えた
・西洋近代などの他への依存を全て捨てて、自己本位であるべきだと考えた
→自分の内面を追求して充実させることで、
自我を確立させることが大切だと考えた
・「行人」や「こころ」などの本を書いた
→夏目漱石は、上の作品で、道徳や周りの人たちからの愛情や友情、
自分の中にあるエゴイズムなどと葛藤する様子を表現した
・晩年に、自己本位を超えて、則天去私の境地に辿りついたと言われている
※則天去私・・天に反する自分を捨てて、天を模範として、天に従うこと
・森鴎外-・「舞姫」という本を書いた
・その本の中で、青年が諦念に陥る過程を表現した
※諦念・・道理を知った時に、無理だと思ったら
迷わずに断念をして諦めること
・社会主義の考え方の歩み
→日清戦争後、工場制機械工業が発達し、労働問題や社会問題が生じてきた
一方で、このような問題を解決して、労働者の生活を保護することを目指して
社会主義の運動が起きた
・社会主義に関連する人たち
・幸徳秋水-・中江兆民の自由民権論の考え方を受けて、社会主義を提唱した
・「社会主義神髄」という本を書いた
→その中で社会主義を紹介して、労働や社会問題の解決を目指すという
「志士仁人」という考え方を提唱した
・帝国主義を批判した
→「卑しむべき愛国心」と「にくむべき軍国主義」の混合だと考えたから
・日露戦争に対して、内村鑑三などと一緒に非戦論を提唱した
・議会主義を諦め、直接行動論に変えていった
・1910年に大逆事件が起こり、幸徳秋水などが処刑された
※大逆事件・・明治政府が全国の社会主義者や無政府主義者を
一斉に摘発した事件のこと
→この事件の後、社会主義運動の動きが弱くなっていったため、
「冬の時代」と呼ばれた
※幸徳秋水は中江兆民の考え方を受けて、社会主義を提唱したのに対し、
木下尚江や安部磯雄という人達は、キリスト教の考え方からスタートして
社会主義を主張した
ポイント
・北村透谷は、ロマン主義と想世界の独立を提唱した
・島崎藤村は、新体詩を収めた「若菜集」を発表し、
自我のめざめと苦しみを新鮮な感覚で歌った
・与謝野晶子は、「みだれ髪」で情熱的な短歌を発表し、
自分の情念を肯定する考え方を提唱した
・国木田独歩は、「欺かざるの記」を書いて、道徳の束縛を捨てて、
自分の感覚で物事に触れるべきだと考えた
・田山花袋は、「蒲団」を発表し、自然主義を提唱した
・石川啄木は、「時代閉塞の現状」という本の後から、社会主義に変わっていった
・夏目漱石は、自己本位を提唱し、則天去私の境地に辿りついたと言われている
・森鴎外は、「舞姫」という本の中で、青年が諦念に陥る過程を表現した
・幸徳秋水は、社会主義や「志士仁人」、非戦論などを提唱し、帝国主義を批判した
・幸徳秋水は、1910年の大逆事件で処刑された
・木下尚江や安部磯雄は、キリスト教の考え方からスタートして社会主義を主張した