租税問題が国家を揺るがす―「家産国家」から「租税国家」へ
イギリスの市民革命史をたどると、租税がいかに重要な問題かということを痛感します。租税が重要な問題として捉えられるようになったのは17Cからなのですが、なぜこの時期だったのでしょうか。ここでキーとなるのが「家産国家」から「租税国家」への移行です。以下、詳細です。
・「家産国家」から「租税国家」へ
家産国家:国家財政を、基本的に国家が保有する財産(=家産)収入で賄うことのできる国家のこと。
租税国家:国家の保有財産だけではその支出を賄うことができず、主として租税収入に依存して国家財政を運営する国家のこと。
17C~19Cにかけて、多くの欧州諸国で家産国家から租税国家への移行が生じました。
⇒当時の絶対王政は、戦争規模拡大による軍費膨張と官僚機構の維持を背景に、王室財産収入(家産収入)だけでは賄いきれない状態であった。そこで必要となったのが租税です。
・議会制民主主義の成立
絶対王政とはいえ、課税は個人の私有財産に介入することを意味するので、財産保有者への同意が必要となります。つまり、議会の承認=議会制民主主義の成立です。
☆絶対王政を維持するために議会制民主主義を導入するという、根本的な矛盾が面白いですね。この矛盾はやがて王政と議会の闘争となって顕在化(名誉革命)するのですが、これについての詳細は改めてまとめるつもりです。
要は、国家財政のコントロール権が国王から議会へと移ったということです。租税と民主主義が密接な関係を持っていることがよくわかります。
※家産国家から租税国家への移行過程については、ヨーゼフ・アーロイス・シュンペーター『租税国家の危機』が詳しいです。これも改めてまとめるつもりです。
・官房学の興隆と衰退
こうして古代・中世に見られた都市国家や領邦国家のような「家産国家」から「租税国家」へと移行したわけですが、この移行は学問体系にも移行を生じさせました。
「官房学」から「財政学」への移行です。
官房学:王室財産の適切な管理や租税の源泉である領国経済の発展を図るための政策体系を構築しようとした学問。とはいえ、関心はもっぱら王室財政の安定と、王室が保有する財産の適切な管理・経営に向けられた。
⇒王室の財政運営が領国経済にもたらす影響については二の次であった。つまり、王室内部をどう運営するかというもの。
しかし、租税国家へと移行すると、国家を成り立たせる財源が王室外部にあるため、学問の関心も合わせて王室外部へと移行しました。
⇒官房学から経済学を経て、財政学へ
財政学:国家財政の分析だけでなく、国家財政と国民経済の関係を分析する学問。財政に関する基本的知識は↓↓↓
☆租税を論じるということは、国家を論じるのとほぼ同義だということを痛感しました。
諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか』新潮社、2013年