財政の機能と役割
現代財政の機能は、①資源配分機能②所得再分配機能③経済安定機能の三つに分けられます。①は経済社会の資源をどの程度まで公共部門に振り向け、また公共部門のなかでどのような用途に効率的に配分するかという機能です。民間部門における経済主体の活動には、生産活動のなかで避けられない外部性が存在します。例えば、企業の生産活動では排ガスや汚水、騒音などの公害が発生する場合があります。これを負の外部性と呼びます。他方で教育を考えてみると、教育を受ける当人の利益を通じて、国全体の知的活動が活性化されるという正の外部性もあります。負の外部性に対しては法的な規制や課税を行ってその活動を抑制したり、正の外部性に対しては政府が経済主体補助金を与えることで活動を促進するという財政活動が支持されます。このように、外部性のもたらす不適切な財・サービスの資源配分を矯正することが財政の第一の役割です。
②の所得再分配機能は、累進所得課税や社会保障移転などの財政的手段によって、所得格差を是正し、社会的公平を実現しようとする機能です。家計は市場において、自らの所有する資本や労働、土地などの生産要素を企業に供給し、所得を手に入れます。生産要素という資源が、市場によって配分されたかたちで利用され、それに応じて家計に所得が分配される限り、資源配分と所得分配は市場にとって最適な状況です。これを機能的分配と呼びます。しかし、各個人は生産要素を平等に所有しているわけではありません。例えば、労働で言えば、労働の質的な差から価格が個人毎に大きく異なります。資本や土地で言えば、労働と同様の価格差があることに加え、保有数も家計ごとに異なるため、各家計の生活水準も異ならせます。このような分配を人的分配と呼びます。
資本主義市場経済が発達すると、この人的分配相違、つまり格差が拡大します。格差が大きくなるにつれて社会が不安定化したり、人道的にも許容範囲を超えてくるようになります。これを解決するために、政府は人的分配に介入するのです。そのための手段として行われるのが、所得の増加に合わせて税率を高める累進所得税と、一定以下の所得の家計に所得を追加する社会保障移転です。社会保障移転は、現金で供給する場合を現金給付と呼び、具体的なサービスで供給する場合を現物給付と呼びます。このように、財政は課税と社会保障移転が対となることで所得再分配機能を果たします。
③の経済安定機能は、景気後退期の財政支出拡大や減税、インフレ時の緊縮財政といった財政政策によって経済の安定化を図ろうとする機能です。現代社会は絶えず経済変動に直面しています。1930年代の世界恐慌、1950年代の徐々に進行するインフレ、1970年代のスタグフレーション、1980年代後半のバブル発生と90年代はじめのバブル崩壊、2000年代にはリーマンショックを発端とする世界的な経済危機に続く不況は、これらの経済変動がもたらした典型例です。こうした経済変動が市場経済のもつ独特の不安定性によるとすれば、公共部門がこの不安定性を可能な限り取り除くという考え方がとられるのは自然の流れでした。つまり、経済変動によって不況物価上昇がどうしても生じてしまう場合には、公共部門が公共支出や税負担の増減を行う必要があるということです。他方で、拡張的な財政政策の行き過ぎは、財政赤字の増大をもたらす危険性もあるので、財政だけに依存することは問題です。金融政策に加え、金融政策の採用、規制改革、経済構造改革なども合わせたポリシー・ミックスが重要だと言えます。
参考文献
・貝塚啓明『財政学[第3版]』東京大学出版会、2003年
・重森曉、鶴田廣巳、植田和弘『Basic現代財政学〔第3版〕』有斐閣、2009年
・橋本徹、山本栄一、林宜嗣、中井英雄、高林喜久生『基本財政学〔第4版〕』有斐閣、2002年