「現代日本の社会保障システム」を読んでジェンダーとセーフティーネットを見直す必要性を感じました
日本の生活保障システムは、妻が家事・育児を担うという「ジェンダー関係」を基軸として、「男性稼ぎ主」に対する所得移転中心の福祉国家であるという主張です。今日においてはこの男性稼ぎ主型という従来の生活保障システムが機能不全に陥っているだけでなく、「逆機能」すなわち、社会的排除を促進する側面すら存在すると主張しています。結論的には、市場が機能するためにこそ、各種の社会的セーフティネットの整備が必要であるということです。
第一章では、生活保障システムというアプローチがなぜ出てきたのかを、「新しい社会的リスク」の表出との関連でまとめています。
第二章では、1980年代における生活保障システムの類型と日本の特徴について、エスピン・アンデルセンの類型論を土台に、日本の生活保障システムはどの類型にも当てはまらないことを指摘した上で、著者なりに類型を組み替え、「男性稼ぎ主」型、「両立支援」型「市場志向」型に分類しています。中でも日本は強固な「男性稼ぎ主」型の生活保障システムだと主張します。その構成要素としては、①家計の在り方が男性中心②政府の社会的支出の低さ、様々な控除がある税設計③家族にかかわる所得移転、サービス給付の少なさ④公的年金制度体系も「男性稼ぎ主」中心などを挙げています。要するに、1980年代は「日本型福祉社会」政策によって「男性稼ぎ主」型は強化されたと主張します。
第三章では、90年代以降、グローバル化などに代表される構造変化が激しい時代に突入したにもかかわらず、日本の生活保障システムは再構築されず、従来型のままでいくことで「逆機能」をおこしていることを分析しています。
更に第四章では、日本は小さな福祉政府かつ大きな土建政府と指摘し、小さな福祉政府の中でも割合の大きい年金を取り上げ、年金においても「男性稼ぎ主」世帯に厚い給付水準であると指摘、次世代育成支援や生活保護などは脆弱であると分析しています。
第五章では、小泉改革に焦点を当てて、小泉政権は生活保障システムを「男性稼ぎ主」型から中立にし、「両立支援」を強めるという方針(理念)が反映されたものの、政策の内実は先送りであり、中高年の「男性稼ぎ主」は相対的に温存されつつ、若者と女性が「排除」されてきたと指摘しています。
第六章では、各章を踏まえた上での解決策として、ユニバーサル・サービス、生活の協同(社会的企業?)の活用が提言されています。最後には、「社会的包摂こそが市場を存立させる」として締めくくっています。
・現状分析に関しては非常に鋭いなと感じました。労働市場と家族の柔軟性を拡大することがポスト工業化のニーズのため、従来型の「男性稼ぎ主」型のままではもはや対応できず、従来型から新たな型へと転換せざるを得ない状況なのは明白でしょう。ただ、どのように転換するかについては、まだ議論の余地がありそうです。本書ではユニバーサル・サービスや社会的企業の活用が挙げられていますが、どこまで実現可能なのかがイマイチ見えにくいです。個人的には、失業リスクを広範にカバーする社会保障制度の構築を前提として、労働移動を活発化させる政策が本丸ではないかと考えています。なんにせよ、日本の生活保障システムが機能不全であることは明白なので、市場を存立させるという意味でもここをきちんと整えることが焦眉の急だということは強調しておきます。
参考文献
・大沢真理『現代日本の生活保障システム―座標とゆくえ』岩波書店、2007年